大判例

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大阪高等裁判所 平成元年(う)864号 判決 1990年1月31日

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役六月に処する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人平山正和作成の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

論旨は要するに、量刑不当の主張であるが、これに対する判断に先立ち、職権をもって調査するのに、原判決は、「罪となるべき事実」として、第一に業務上過失傷害罪を、第二にその際の無免許かつ酒気帯び運転の罪を認定・判示したうえ、右第二の事実を認定するのに用いた証拠としては、被告人の司法警察職員及び検察官に対する各供述調書、司法警察職員作成の「運転免許証に関する調査報告書」及び「酒酔い・酒気帯び鑑識カード」(検知管付き)を掲げているところ、無免許運転ないし酒気帯び運転の罪を認定するにあたっては、被告人の自白がある場合でも、被告人が運転免許を受けていなかった点及び酒気を帯びていた点のみならず被告人が当該日時にその自動車を運転したという点についても補強証拠を必要とし、また、有罪判決の理由としても、証拠の標目中にこれを掲げることが必要であると解されるのであるが、前示の調査報告書ないし鑑識カードは被告人の運転行為の補強証拠たりえないことが明らかである。してみると、原判決には、被告人の運転行為についての補強証拠が掲げられていないという点で理由不備の違法があるものといわなければならず、原判決は破棄を免れない。

よって、論旨に対する判断をするまでもなく、刑訴法三九七条一項、三七八条四号により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書により、当裁判所において更に次のとおり判決する。

当裁判所が認定した罪となるべき事実は、原判決が認定した「罪となるべき事実」と同一であり、その証拠としては、判示第二の事実についても、Aの司法警察職員に対する供述調書を追加するほか、原判決が掲げる証拠の標目のとおりであるから、これらを引用し、原判決が挙示する各法条を適用し(ただし、「同法一一九条一項七の二号」とあるのを「同法一一九条一項七号の二」と改める。)、後記の理由により、被告人を懲役六月に処する。

(量刑の理由)

本件は、無免許かつ酒気を帯びた被告人が普通乗用自動車を運転し、原判示の交差点を右折しようとした際、直進車の通過を待つなどしなかった過失により直進車の進行を妨害してこれと衝突し、その運転者(三八歳の男性)に骨折を伴う加療約三か月の傷害を負わせたという事案があるが、その罪質、過失の程度、被害の結果並びに被告人の前科関係など、すなわち、本件が無免許・飲酒運転といういわゆる交通二悪を伴う交通人身事故であって悪質であること、被告人は、無免許運転、酒気帯び運転で各一回罰金刑に処せられた後昭和六三年八月には無免許かつ酒気帯び運転により更に罰金刑に処せられたにもかかわらず、その約四か月後に本件を犯していることのほか、過失の程度、被害の結果ともに軽微とはいいがたいなどの事情に徴すると、本件が刑執行猶予を相当とする案件とは考えられないが、被害者との間で示談が成立し、被告人は当審において示談金の支払をすべて了し、被害者は重ねて被告人を宥恕する意思を表明していることなど被告人に有利な情状も認められるので、主文の刑を量定したものである。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西村清治 裁判官 石井一正 浦上文男)

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